皆様こんにちは。タイ移転価格協力会の片瀬です。今日は、前回に引き続き、移転価格リスクを排除するための重要な概念である移転価格ポリシーについてお話できればと思っています。移転価格ポリシーのイメージ付けは前回のコラム「移転価格ポリシーとは何か?(初級編)」にて記載をしています。併せてご確認いただければ幸いです。

さて、応用編の今回については、まずは下記のドキュメンテーションフローにおける移転価格ポリシー作成部分を読み解いていくことにします。

【ドキュメンテーションフロー】赤字部分がポリシー作成の核となる部分です。
①グループ各社で作成している移転価格文書の状況(構成及び内容)確認
②作成済みの各文書間の整合性の確認
③重要な機能又はリスクがある項目への対応策の検討、実施
④ユニラテラルAPAや税務ルーリングの他国への影響の確認
⑤サプライ・チェーンの整理(内部CUP及び外部CUPの確認)
⑥確認された移転価格リスクも踏まえたポリシーの策定(価格設定方法の決定)
⑦価格設定方法における目標利益率の算定(取引価格の設定)
⑧事業方針を反映した利益配分の検証
⑨移転価格ポリシーのグループ内での周知と実務運用(利益水準・価格の設定)
⑩移転価格ポリシーを基にしたMF、LF、CBCRの作成
⑪期中検証(検証対象の利益水準を確認し、価格調整の要否の検討)
⑫期末検証(検証対象の利益水準を確認し、期末一括価格調整の要否の検討及び翌年度の価格設定)
⑬移転価格ポリシー、マスターファイル、ローカルファイル、CBCRの更新

<サプライ・チェーンの整理>
グループ全体の商流・物流、親子ローン、役務提供、ロイヤルティなどを含めたサプライ・チェーン図を作成します。サプライ・チェーン図は概要図であり、移転価格ポリシーを作成する為には、更にこれらの取引を細かくセグメンテーションします。

セグメンテーション例
①現地製造販売取引
②日本製造販売取引
③受託製造取引
④再販売取引
⑤親子ローン
⑥製造ロイヤルティ
⑦営業ロイヤルティ
⑧技術支援
⑨管理支援
⑩固定資産取引

※例えば現地製造販売取引に関して、製品の性格や利益率が大きく異なる場合には、更に細かく製品群のセグメンテーションをしていきます(その他の②~⑩のセグメントについても、必要があれば更にブレイクダウン)。

この際に必ず確認する必要があることが、内部CUPと外部CUPについてです。過去コラム「移転価格税制とはそもそも何か?(入門編)」にも記載しましたが、移転価格税制の検証は、第三者取引による価格と自社取引による価格との比較によって行われます。内部CUP(内部コンパラブル)とは、自社において第三者と取引を行っている場合のその比較対象取引(価格)をいい、内部CUPにおける価格と関連会社間取引の価格が同様の価格設定方法によって行われているかの確認が絶対に必要となるのです(つまり、同製品を第三者に高く、親会社に安く売るなどをしていたら一発アウトの可能性が高いということです)。

<確認された移転価格リスクも踏まえたポリシーの策定(価格設定方法の決定)、価格設定方法における目標利益率の算定(取引価格の設定)、事業方針を反映した利益配分の検証>
セグメントに分類された取引ごとに価格設定方法・利益指標(総費用営業利益率など)を選定します。もちろんピンポイントの比較対象取引(上記でいう内部CUPなど)がある場合には、そちらを優先して価格設定を行います。ピンポイントの比較対象がない場合には、選定された価格設定方法・利益指標において、同業他社から抽出された同利益指標における利益率レンジ等を基に目標利益率を設定します(つまり、例えばTNMMを利用し、総費用営業利益率を利益指標とした場合に、同業他社の総費用営業利益率がどれくらいの水準かを確認して、自社の利益率もその辺りを目標に設定しようということ)。

⇒これによって目標利益率を設定していた場合には、インカムアプローチによる製造ロイヤルティの評価も紐づきで行うことができます(目標利益率を超過した部分が超過収益力=ロイヤルティとして)。

目標利益率が定まったら、関連会社間の取引価格の決定です。製造業の場合には、コストプラス方式(かかるコスト及び目標利益(基本的利益)を積上げて売価を設定)をベースとして取引価格を決定し、卸売業の場合には、マーケットマイナス方式(売価からかかるコスト及び目標利益(基本的利益)を差引いて仕切値を設定)をベースとして取引価格を決定することとなります。

価格設定については上記のセグメント毎に、このように値段を付けるべきだという「あるべき論」が存在します。そのために、移転価格ポリシーを作成しない場合においても、税務調査の際に「あるべき論」に則って反証できるような準備はしておく必要があります。

<移転価格ポリシーのグループ内での周知と実務運用(利益水準・価格の設定)>
そして、実務上で一番難しいのがこれです。目標利益率を決めても、実際のビジネスでそれを達成できるかは別の話です。ポイントは、次の通りです。
①親会社においてタイ子会社の前年度の決算書を細かく分析する(データベースから比較対象を抽出し、この利益率を達成するようにと子会社へ指示を出すだけでは達成することが難しく、事前の分析が非常に重要です)。

②子会社の責任者や営業責任者に内容を伝えて達成可能性を確認する(基本的に、営業責任者などの営業畑の方は、売上達成に注力する傾向にあります。もちろんスタートアップの時などは仕方ないのですが・・・、水準となる利益、かかるコスト、その他にもむやみなバーター取引や、値下げなどをしないように、お互いに意思の疎通はしておく必要があります。)※全体の利益についても1つ1つの取引の積み重ねです(個別にイレギュラーがなければ全体にもイレギュラーがない)。


少し長くなってしまいましたが、今回は移転価格ポリシーについてお伝えいたしました。移転価格ポリシー(移転価格税制上の価格設定)のポイントは、「取引セグメント毎に値付けの「あるべき論」とも言える型が存在する。そのため税務調査等の際には「あるべき論」に則って主張を行う(ルールに則って行っており、恣意的な決定は行っていないということも重要)」ということでしょうか。参考にしてもらえれば幸いです。

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