皆様こんにちは。タイ移転価格協力会の片瀬です。今日は、移転価格リスクを排除するための重要な概念である移転価格ポリシーについてお話できればと思っています。移転価格ポリシーの具体的な内容に入る前に、移転価格ポリシーの簡単なイメージをお伝えします。
【イメージ付け】
移転価格文書は決算書という結果の数字を使って、親会社との取引価格に問題がなかったこと(利益の移転がなかったこと)を証明するものです。ただし、結果の数字が思うように伸びなかった場合には、利益操作により数字が伸びなかったと指摘されてしまう可能性があります。事実、結果として赤字になってしまっていますからね。
これを指摘する税務調査担当官の目には、赤字=利益移転と映っていることでしょう(特にタイでは)。いくら「利益移転は存在しない」と説明しても全ての説明が後付けに聞こえてしまいます。あるのは決算書などの結果の資料がほとんどですから。
・・・・なので。調査担当官からは、
「証拠資料を出してください。」
とくるのです。ただ、中小企業において社長又は営業担当者が決めた価格について、合理性のある資料というのは、あまり残っていないものです(価格を決めるのが日本本社であれば尚更)。中には、同様の商品の値段がクライアントによって異なることもあります。税務調査の世界では、過程の説明が上手にできなければ、結果の数字が意味ないものになることが往々にして起こります。もし、説明ができたとしても、後から矛盾点を潰していくことはかなり大変です。
これらを簡単にまとめると、「結果の数字だけでは利益操作があったと簡単に指摘できる(特に赤字は危険!!!!)」ということになり、これを排除するために必要なものが「移転価格ポリシー」となるのです。
【移転価格ポリシーのイメージ付け】事前に決められた統一的な価格設定のルールであり、これを基にビジネスを行うことによって利益操作があったとは簡単に指摘できない
さて、移転価格ポリシーが、「恣意性を排除するための統一的な価格設定のルール」だということが解りました。ここからは、その移転価格ポリシーの具体的な説明に入っていきます。
移転価格ポリシーとは、多国籍企業が行う国外関連取引(親子会社間の取引や兄弟会社間の取引)が独立企業原則に基づいて行われるよう多国籍企業グループのすべての取引について、取引の類型毎に移転価格設定方針及び運用のルールを定めたものをいいます。
BEPS ACTION PLANにおいては、三層構造の移転価格ドキュメンテーション(マスターファイル:MF、ローカルファイル:LF、国別報告書:CBCR)の作成を求めていますが、移転価格ポリシーについてはマスターファイルの一部の項目として含められているだけです。
本来であれば移転価格ポリシーに関しては、機能・リスク・資産の特定及び整理、各国の利益水準の整合性の確認及び再配置、利益水準・価格の設定を行う基礎となるものです。これらの基礎となる移転価格ポリシーを作成するためには、ただ単にMF、LFを作成するだけでは足りず、下記のフローによってドキュメンテーションが行われることとなります。
【ドキュメンテーションフロー】※太字部分がポリシー作成の核となる部分です。①グループ各社で作成している移転価格文書の状況(構成及び内容)確認②作成済みの各文書間の整合性の確認③重要な機能又はリスクがある項目への対応策の検討、実施④ユニラテラルAPAや税務ルーリングの他国への影響の確認⑤サプライ・チェーンの整理(内部CUP及び外部CUPの確認)⑥確認された移転価格リスクも踏まえたポリシーの策定(価格設定方法の決定)⑦価格設定方法における目標利益率の算定(取引価格の設定)⑧事業方針を反映した利益配分の検証⑨移転価格ポリシーのグループ内での周知と実務運用(利益水準・価格の設定)⑩移転価格ポリシーを基にしたMF、LF、CBCRの作成⑪期中検証(検証対象の利益水準を確認し、価格調整の要否の検討)⑫期末検証(検証対象の利益水準を確認し、期末一括価格調整の要否の検討及び翌年度の価格設定)⑬移転価格ポリシー、マスターファイル、ローカルファイル、CBCRの更新
・・・・このような内容を先の「タイの移転価格税制改正の情報誌」にも記載していましたが、学問色が強く、実際に何をすれば良いのかはかなり難しいと思います。ただし、税務調査(移転価格調査)において、このようなポリシーが必要となるのもまた事実なんです。
なので今回のコラム「移転価格ポリシーとは何か?(入門編)」では、次のポイントだけは必ず押さえておいて頂ければと。
【POINT】①取引価格の設定方法を統一のものとする必要がある
(操作してはダメ!セグメンテーションは可能!)②取引価格の設定方法が他の取引と違うものを存在させる場合には必ず客観的な理由を作る
(合理性が必要!セグメンテーションしても個別取引での指摘可能性があるため注意!)③個々の取引はもちろん全体としても利益が出るような価格を設定する
(利益がでない取引は異常!)④結果として、事業計画が移転価格ポリシーの内容を織り込んだものとなる
(関連性が高い!)
特に①と③が重要です。中小企業であれば、全てをガチガチに固めたポリシーを作成すると動きづらくなる可能性も高いので、①と③に注意して取引価格の設定を行う必要があるのです。とにかく矛盾をなくすことです。統一したルールに則って粛々とビジネスを進めている(ようにみえる)必要があります。移転価格ポリシーはその前提のものですので、簡単なものでも良いので作成のご検討をよろしくお願いいたします。
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