皆様こんにちは。タイの移転価格税制の改正により、タイにおいても移転価格文書の作成が義務付けられました。今回のコラムにおいては、その中でもタイにおいて保存が必要になり、税務当局からの指摘の対象となる可能性の高い「ローカルファイル」について、お話させていただければと思います。

 

前回の「移転価格税制とはそもそも何か?(入門編)」で記載した通り、移転価格税制の本質的な部分は次の通りです。 

【本質的な部分】

①自社グループ内の値付けは親会社が自由に決めることが可能(問題点)

②価格の検証は第三者が利用している価格によって検証(検証方法)

③グループ内価格と第三者価格に差異があればその差異に対して課税(課税方法)


自社グループ内の値付けは親会社が自由に決めることが可能なため、グループ内の次の各取引区分の価格設定が第三者取引価格に準じているということを証明するものが「ローカルファイル」となります。

 【取引区分】

①棚卸取引

②役務提供取引

③有形(固定)資産取引

④無形資産取引

⑤利息取引


ここで重要なことは、「第三者取引価格」とは何か?ということですが、まずは内部の第三者取引価格(内部
CUP)と外部の第三者取引価格(外部CUP)の検証が必要です。

 

移転価格についてお客様と話をしていると、ローカルファイルはデータベースを利用して、第三者の利益率と自社の利益率を比較(TNMM:取引単位営業利益法による検証)するものとご認識している方が多いですが、利益率の検証の前にこの内部・外部CUPの検証は必ず行わなければなりません。

 

実際に私が作っているローカルファイルから該当する部分を抜き出してみましょう(商社の場合:概要の記載になります)。

 

EX)独立企業間価格算出方法の選定

独立企業間価格

算出方法

適用可否

適用可否理由

CUP

×(不可)

検証対象会社と国外関連者は第三者との間で対象取引と同種の棚卸資産を同一の条件で販売又は購入を行っていません。また、比較可能な取引データを公開データ等から入手することは困難であり、そのためにCUP法の適用は適切でないと判断しました。

CP

×(不可)

検証対象会社と国外関連者は第三者との間で対象取引と同種の棚卸資産を類似した条件で販売する取引は行っていません。また比較可能な取引データを公開データ等から入手することは困難であり、そのためにCP法の適用は適切でないと判断しました。

RP

×(不可)

検証対象会社と国外関連者は第三者との間で対象取引と同種の棚卸資産を類似した条件で再販売するか、類似した機能及びリスクを負担しているかなどの比較可能性を高める合理的な調整ができなければなりません。ただし、信頼性の高い情報は第三者には制限されており、公開データ等から入手することは困難であったため、RP法の適用は適切でないと判断しました。

TNMM

○(可)

TNMMは分析対象取引を検討することにおいて、他の価格算出方法のような高度な比較可能性が要求されず、商品や取引条件などの差異による収益性指標の変動が相対的に少ないという利点により、検証対象会社の独立企業間価格の算出にはTNMMの適用が適切であると判断しました。

PS

×(不可)

PS法は、国外関連者の双方が価値のある無形資産を保有する場合において使用されますが、検証対象会社においてはそのような超過収益力のある重要な無形資産の保有が認められないためにPS法の適用は適切でないと判断しました。

CUPを採用する場合のコメントの記載例は、先日公開した移転価格税制の改正の小冊子52P に記載していますので、併せてご確認いただければ幸いですhttp://transferpricing.livedoor.blog/archives/14587623.html

 

こちらはTNMMを利用する場合のコメントの記載例を載せたものですが、TNMMの採用はあくまでも結果として、これを採用するという形にしなければなりません(内部CUP・外部CUPがないために、仕方なくTNMMを利用しているという形)。そもそもその他の方法を検証しないでTNMMを利用することは基本三法をベースとしているタイの移転価格実務においては不十分と言えるでしょう。

※理論的には、TNMMよりも基本三法(営業利益率で比較するのではなく、モノ自体の価格等によって比較する方法)の方が優れています。

 

少し難しいので、簡単にいうと、「第三者に100円で売っているモノを、グループ内では80円で売っていたら問題(なぜ同じモノなのに値段が違うの???)」ということです。特に中小企業は社長や営業がモノの値段を決めることが多く、画一的な価格設定を行っていない場合が少なくはありません。そのために後々移転価格において、問題となることが多いようです。

 

後々で問題になると、ローカルファイル上において、言い訳しか書けなくなるので、事前に移転価格ポリシー(又は、それに準ずる価格設定の範囲)を作成することが重要です。2019年度からタイの移転価格税制が始まりましたが、2019年度が終了した後にローカルファイルを作成すると、結果が出てしまった(決算が終わってしまった)後のものとなるために、移転価格リスクを排除することが難しくなります。

 

そのために現段階から、移転価格ポリシー(又は価格設定の範囲・現状のリスクに対する覚書など)の作成をしておいた方がよいでしょう。特に移転価格における指摘は、追徴が多額になるために移転価格リスクの確認は必ず行っておく必要があります。※レポートを急いで作らないとしてもリスク確認だけは行っておく。

 

さて、今回のコラムは以上となります。ドキュメントを作ることを目的とするのではなく、移転価格リスクを排除することを目的として、移転価格実務に取り組んでもらえればと思います。そのため次回は、リスクを排除するための重要な概念である移転価格ポリシーの作成について、基本編と応用編に分けて記載しようと思います。是非ご確認いただければ幸いです。

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