皆様こんにちは。タイ移転価格税制協力会の片瀬です。

2018年1月のタイ移転価格税制改正案の内閣承認時にタイ移転価格税制協力会を発足し、現在ではその協力会社がタイ及び日本を含め7社(
BBS (Thailand) Co.,Ltd./Bridge Note (Thailand) Co.,Ltd./J-CROWN Co.,Ltd/J Glocal Accounting Co.,Ltd./シグマライズ税理士事務所/MASTコンサルティング株式会社/LIBRO Co.,Ltd)まで拡大しています。

以前よりBridge Note(Thailand)Co.,Ltdにてタイの移転価格税制の改正案などの記事をアップ(5分で分かるタイビジネス
)してまいりましたが、タイの移転価格税制の改正を受けて専門のチャネルを用意し、今後はタイ移転価格協力会により当ブログを運営してまいります。

さて、移転価格税制が歳入法に追加され、2018年11月22日(木)から施行されました。施行内容については既にご存知の方も多いかと思いますので、現状のタイの移転価格税制の関連規定を今回歳入法に追加された内容を含めて、下記に網羅的に記載します。

【2018年11月22日付の移転価格関連法案】

<第65条その2(4)>

対価の支払等の有無にかかわらず「資産販売、サービスの提供及び金銭の貸借」が理由なく市場価格以下の場合には、税務当局は当該取引日の市場価格で取引対価を決定する権限を有する。

<同条(7)>

海外からの輸入商品の価格を計算する場合、税務当局は同一の商品が他国に輸入される場合の価格を比較対象として、価格を決定する権限を有する。

<第65条その3>

次の(1)から(20)の項目は、課税利益の計算上、経費として認められない。

※従前の高額購入関連の規定であり、高額購入・低額譲渡に係る費用、引当金や貸倒損失などの費用は損金不算入とされています(長いので省略しています)。

<第70条その3>

タイ法人の本店、支店等の注文により海外に送付された商品は、タイ国における売上とみなすものとし、商品が送付される会計年度の収入とみなされる。ただし、以下に掲げる場合はこの限りではない。

(1) 見本品または試供品

(2) 未着品

(3) タイ国に輸入された商品で輸入日から1年以内に送付主に再輸出されるもの

(4) タイ国から輸出された商品で輸出日から1年以内に送付主に返却されるもの

<ガイドラインにおける市場価格計算の方法論>

国際的に認められている移転価格計算方法は、次の通りである。

(1) 伝統的取引計算方法(Traditional Transaction Methods)

①独立価格比準法(Comparable Uncontrolled Price Method)

②再販売価格基準法(Resale Price Method)

③原価基準法(Cost Plus Method)

(2) 取引利益計算法(Transactional Profit Methods)

① 利益分割法(Profit Split Method)

② 取引単位営業利益法(Transactional Net Margin Method)

<ガイドラインにおけるローカルファイル記載内容及び保存書類>

(1) 各事業会社によって運営される事業構成及び性質を含む同一グループ内の各事業会社間の構成及び関係を記載した書類

(2) 予算、事業計画及び財務予測

(3) 納税者の事業戦略及びその戦略を採用する理由を記載した書類

(4) 売上高、営業成績及び同一グループ内の事業会社との取引の性質を記載した書類

(5) 同一グループ内の事業会社と国際取引に従事するに至った理由を記載した書類

(6) 各事業会社の価格設定ポリシー、製品・商品利益率、関連市場情報及び利益配分の内容。遂行する機能、負担するリスク、利用されている資産。

(7) 特定の価格設定方法の選択を裏付ける書類

(8) 上記キ以外の価格設定方法が採用できない理由を裏付ける書類

(9) 同一グループ内の事業会社との取引における価格設定ポリシー及びこれらのポリシーの根拠を示す証拠として使われる書類

(10) その他の移転価格の算定に関連した書類

※我々は、上記の価格設定ポリシーは、マスターファイル又は移転価格ポリシーとして別記されるものと考えています(タイ1国のためのポリシーではなく、グローバルポリシーのため)

<歳入局ガイドラインNo.Paw.113/2545の内容>

(1) 所在地国にかかわらず法人は歳入法に定めた収入及び経費の計算方法に従う。

(2) 移転価格(独立企業間価格)とは、管理・支配・資本関係における直接的又は間接的に支配関係のない独立した企業間で行われる取引価格をいう。

(3) 市場価格の決定に際しては、ア 独立価格比準法(Comparable Uncontrolled Price Method)、イ 再販売価格基準法(Resale Price Method)、ウ 原価基準法(Cost Plus Method)、エ 前記ア~ウが適用されない場合には、国際的に認められた他の方法を用いるものとする。※基本三法優位(ベストメソッドであっても基本三法の方が理論的な優先度は高い)。

(4) 税務調査官は、調査における市場価格の算定に際して、納税者が社内で準備し保管すべき書類(上記の(1)~(10)までの内容の書類)を検証するものとする。なお、「同一グループ内の各事業会社」とは、直接的または間接的に経営、管理、資本関係にあるグループ法人をいう(50%基準)。法人の収入及び経費の計算において、上記市場価格計算方法に従ったものであって、その方法が合理的である場合には、税務調査官は、当該法人が採用する市場価格の決定方法により収入及び経費の計算を行うことを認める。

(5) 法人が関係会社間取引について、歳入局と移転価格の事前確認(Advance Pricing Arrangement)を行う場合には、移転価格事前確認の申請を行う。この申請の際は、事前確認に基づいて法人が順守すべきルール、方法論及び条件を示した歳入局局長への書面を添付する。※APAが現状において制度として確立されているとは言い切れません。

<移転価格に係る事前確認制度(APA)>

(1) 事前確認制度は、関連者間取引に係る移転価格の内容について納税者が当局に申請し、事前に確認を受ける制度をいう。

(2) タイにおいては、取引相手国も含めた二国間事前確認(Bilateral APA)のみが申請可能。

(3) APAの手続きとして、APAの対象となる関連者間取引を特定し、当該取引について、移転価格算定方法の検討、比較対象会社の選定等の分析を実施する。

(4) 当該ガイドラインに記載される手続きに則った申請が必要となる。

(5) APA申請後は、税務当局による申請内容の審査及び二国間での相互協議が行われる。

<移転価格税制の新法案>

今回の改正で新たに追加された新法案部分は次の通りです。

●第71条2(1)

関係会社間取引について、納税者が独立した第三者との取引において適用されるべき条件と乖離した条件で取引を行っていることが税務調査において発見された場合、税務調査官は、納税者の課税所得を独立企業間取引において獲得したであろう金額に更正する権限を有する。なお、当該更正に際しては、国際基準に沿うことを目的としてタイ国が締結している国々との租税条約を考慮するものとする。

●第71条2(2)

歳入法における「関連者」の定義を以下の通り定める。

(1) 一方の法人が、他方の法人の株式の総数又は出資金額の50%以上を直接又は間接に保有される関係にある法人

(2) 同一の者によってそれぞれの株式の総数又は出資金額の50%以上を直接又は間接に保有される関係にある法人

(3) 一方の法人が資本・経営・支配権の観点において、他方の法人に依存しなければならない関係にある法人で財務省令に定めるもの(実質支配関係にある法人)

●第71条2(3)

歳入法では、同条(1)に基づき、税務調査官が納税者の課税所得を更正した場合には、納税者に対して税金の還付を認める。納税者は法人税申告書の提出日から3年以内、若しくは税務調査官から更正通知を受けた日から60日以内に税金の還付を申請することができる。

●第71条3(1)

関連会社間取引があり、かつ、その事業年度の売上の額が省令に定める金額(2億バーツ)以上の法人は、歳入局長が定める書式(この書式はまだ公表されていない)に従って、その事業年度の関連者間取引の金額などの関連者間取引に関する情報を記載した付表を作成し、その事業年度終了日から150日以内(法人税申告書の提出期限)に歳入局へ提出しなければならない。

●第71条3(2)

法人税申告書の提出日から5年以内に、タイ歳入局は、関連会社間取引があり、かつ、その事業年度の売上の額が省令に定める金額を超える法人に対し、移転価格の算定・分析に必要な文書若しくは証憑の提出を求めることができる。提出を求められた納税者は、その通知を受けた日から60日以内に提出しなければならない。ただし、税務調査官はその裁量により、通知日から120日を超えない範囲でその提出期限を延長することができ、また、初回リクエストに限り180日以内の提出が認められる。

●第35条3

相当の理由なく第71条その3に定める書類を提出しない、あるいは提出した書類に不備がある場合には、20万バーツを超えない範囲で罰金が課される。

●改正法第5条

2019年1月1日以降に開始する会計期間から適用する。


これが現在のタイの移転価格税制の内容の全てとなります。日本や他国の移転価格税制や関係省令などに比べると内容がまだまだ固まっていないというのがタイの現状となります。


しかし、このような中でも、移転価格文書の保存義務が定められたために、現状において最も合理的及び客観的である文書を作成しなければなりません。

合理的・客観的な移転価格文書とは何であるかをまとめた「タイ移転価格税制」という情報誌を近日中に後悔しようと考えていますので、そちらについても是非ご確認いただければと思います。

それでは引き続き、よろしくお願いします!