5分で分かるタイの移転価格税制

2018年11月22日にタイの移転価格税制が施行され、多くの日系企業(売上基準:2億バーツ以上)に移転価格文書の保存義務が課されました。このブログではタイの移転価格税制の最新情報/他の日系企業の具体的対応/実務上の取扱いなどをタイ・日本・インドネシア・中国・メキシコなど各国の移転価格ドキュメント作成の実務対応を行い、かつ、タイ会計事務所移転価格税制協力会(参加メンバー7社)の発起人である片瀬が解説いたします。※タイに限らず日本やインドネシア、ベトナムなどの各国の情報も比較として執筆する予定ですので、各国に展開している会社様は是非参考にしていただければと思います。

皆様こんにちは。タイの移転価格税制の改正により、タイにおいても移転価格文書の作成が義務付けられました。今回のコラムにおいては、その中でもタイにおいて保存が必要になり、税務当局からの指摘の対象となる可能性の高い「ローカルファイル」について、お話させていただければと思います。

 

前回の「移転価格税制とはそもそも何か?(入門編)」で記載した通り、移転価格税制の本質的な部分は次の通りです。 

【本質的な部分】

①自社グループ内の値付けは親会社が自由に決めることが可能(問題点)

②価格の検証は第三者が利用している価格によって検証(検証方法)

③グループ内価格と第三者価格に差異があればその差異に対して課税(課税方法)


自社グループ内の値付けは親会社が自由に決めることが可能なため、グループ内の次の各取引区分の価格設定が第三者取引価格に準じているということを証明するものが「ローカルファイル」となります。

 【取引区分】

①棚卸取引

②役務提供取引

③有形(固定)資産取引

④無形資産取引

⑤利息取引


ここで重要なことは、「第三者取引価格」とは何か?ということですが、まずは内部の第三者取引価格(内部
CUP)と外部の第三者取引価格(外部CUP)の検証が必要です。

 

移転価格についてお客様と話をしていると、ローカルファイルはデータベースを利用して、第三者の利益率と自社の利益率を比較(TNMM:取引単位営業利益法による検証)するものとご認識している方が多いですが、利益率の検証の前にこの内部・外部CUPの検証は必ず行わなければなりません。

 

実際に私が作っているローカルファイルから該当する部分を抜き出してみましょう(商社の場合:概要の記載になります)。

 

EX)独立企業間価格算出方法の選定

独立企業間価格

算出方法

適用可否

適用可否理由

CUP

×(不可)

検証対象会社と国外関連者は第三者との間で対象取引と同種の棚卸資産を同一の条件で販売又は購入を行っていません。また、比較可能な取引データを公開データ等から入手することは困難であり、そのためにCUP法の適用は適切でないと判断しました。

CP

×(不可)

検証対象会社と国外関連者は第三者との間で対象取引と同種の棚卸資産を類似した条件で販売する取引は行っていません。また比較可能な取引データを公開データ等から入手することは困難であり、そのためにCP法の適用は適切でないと判断しました。

RP

×(不可)

検証対象会社と国外関連者は第三者との間で対象取引と同種の棚卸資産を類似した条件で再販売するか、類似した機能及びリスクを負担しているかなどの比較可能性を高める合理的な調整ができなければなりません。ただし、信頼性の高い情報は第三者には制限されており、公開データ等から入手することは困難であったため、RP法の適用は適切でないと判断しました。

TNMM

○(可)

TNMMは分析対象取引を検討することにおいて、他の価格算出方法のような高度な比較可能性が要求されず、商品や取引条件などの差異による収益性指標の変動が相対的に少ないという利点により、検証対象会社の独立企業間価格の算出にはTNMMの適用が適切であると判断しました。

PS

×(不可)

PS法は、国外関連者の双方が価値のある無形資産を保有する場合において使用されますが、検証対象会社においてはそのような超過収益力のある重要な無形資産の保有が認められないためにPS法の適用は適切でないと判断しました。

CUPを採用する場合のコメントの記載例は、先日公開した移転価格税制の改正の小冊子52P に記載していますので、併せてご確認いただければ幸いですhttp://transferpricing.livedoor.blog/archives/14587623.html

 

こちらはTNMMを利用する場合のコメントの記載例を載せたものですが、TNMMの採用はあくまでも結果として、これを採用するという形にしなければなりません(内部CUP・外部CUPがないために、仕方なくTNMMを利用しているという形)。そもそもその他の方法を検証しないでTNMMを利用することは基本三法をベースとしているタイの移転価格実務においては不十分と言えるでしょう。

※理論的には、TNMMよりも基本三法(営業利益率で比較するのではなく、モノ自体の価格等によって比較する方法)の方が優れています。

 

少し難しいので、簡単にいうと、「第三者に100円で売っているモノを、グループ内では80円で売っていたら問題(なぜ同じモノなのに値段が違うの???)」ということです。特に中小企業は社長や営業がモノの値段を決めることが多く、画一的な価格設定を行っていない場合が少なくはありません。そのために後々移転価格において、問題となることが多いようです。

 

後々で問題になると、ローカルファイル上において、言い訳しか書けなくなるので、事前に移転価格ポリシー(又は、それに準ずる価格設定の範囲)を作成することが重要です。2019年度からタイの移転価格税制が始まりましたが、2019年度が終了した後にローカルファイルを作成すると、結果が出てしまった(決算が終わってしまった)後のものとなるために、移転価格リスクを排除することが難しくなります。

 

そのために現段階から、移転価格ポリシー(又は価格設定の範囲・現状のリスクに対する覚書など)の作成をしておいた方がよいでしょう。特に移転価格における指摘は、追徴が多額になるために移転価格リスクの確認は必ず行っておく必要があります。※レポートを急いで作らないとしてもリスク確認だけは行っておく。

 

さて、今回のコラムは以上となります。ドキュメントを作ることを目的とするのではなく、移転価格リスクを排除することを目的として、移転価格実務に取り組んでもらえればと思います。そのため次回は、リスクを排除するための重要な概念である移転価格ポリシーの作成について、基本編と応用編に分けて記載しようと思います。是非ご確認いただければ幸いです。

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皆様こんにちは。タイ移転価格協力会の片瀬です。

Q. 皆様の会社ではロイヤルティを網羅的に検証されていますか?

①製造技術などの技術に対するロイヤルティ
②商標権などのグローバルブランドに対するロイヤルティ
③販売網などの営業ノウハウに対するロイヤルティ

(移転価格文書を作成済の)多くの企業では、①と②のロイヤルティについては既に検証されていますが、③の営業ロイヤルティが十分に検証されているとは言いづらい状況にあります。諸国の移転価格ガイドラインや無形資産の規定を確認していると、近年では営業ロイヤルティもロイヤルティの範疇に入っていますので、移転価格ドキュメントを作成する際には十分に検証する必要があります(商社であっても、親会社のクライアントリストを利用している場合や、日本において新規顧客開拓をしている場合、見積書の作成を親会社主導で行っている場合などは、日本の税務当局からロイヤルティを収受するようにと指摘される可能性があるため注意が必要です)。

Q. 網羅的に検証されたロイヤルティの料率は何%に設定していますか?

タイにおけるロイヤルティ料率は、「3~5%」が良いようです。・・・とこのように書籍やネットに記載されており、タイの顧問会計事務所に聞いても同様の返事が来ます。そのために多くの日系企業のロイヤルティ契約書をみると、「ロイヤルティ料率は売上高の3%とする」と言うような文言のみで記載されています。

5年前までは、上場企業を含めた多くの日系企業の書き方がこのような書き方でしたが、今や上場企業において、こんな内容でロイヤルティ契約を巻いているところはありません。中小企業だけが取り残されている状況です。

今までは、移転価格税制が存在しなかったためにロイヤルティの料率について、赤字企業のロイヤルティの支払い以外の指摘をあまり聞くことがありませんでした(赤字企業は超過利益が存在しないと言い切れるため)。また、多くの書籍やネット、顧問会計事務所が3~5%と同様の話を日系企業に行っていたため、図らずにもマーケットプライスとして3~5%が定着していました(客観性の高いマーケットアプローチによる料率となっていた)。

今後は、移転価格文書を残して、ロイヤルティ料率の算定根拠を示さなければなりません。例え税務当局からロイヤルティの料率の指摘をされたとしても、客観的なポリシーとしてロイヤルティ料率を設定していると反証しなければなりません。この場合において、「他の日系企業も3~5%と聞いている」では、客観的な反証の材料とならないので、今後は数字に意味を持たせるロイヤルティ料率を設定し、契約を巻くことが必要です。

※更に詳しいロイヤルティの内容については、次の「移転価格税制改正内容」のP40からをご覧ください。

↓↓↓こちらをクリックしてください↓↓↓

図1

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皆様こんにちは。2018年11月にタイの移転価格税制が改正されました。移転価格税制というものに馴染みがない日系企業に訪問すると、自社には関係がない、タイ人の経理マネージャーが上手くやっているというような話を聞くことが多いですが、本当にそうでしょうか。
移転価格税制とは、企業グループ間取引の価格の適正性を検証するものです。
親会社と子会社の関係では、親会社が株主であり、子会社の経営に容易に指示を出すことが可能です。第三者に100円で売っているものについて、子会社に120円で買ってもらったり、80円で買ってもらったりと値段を好きに決めることができます。

ここで問題となることは、親会社の指示により、親会社に利益を付けることも子会社に利益を付けることも、どちらも可能となることです。日本国内であればどちらに利益を付けたとしても、結局は日本に税金(利益×税率)が落ちます。ただし、タイに展開している企業であれば、タイに利益を落とすことも、日本に利益を落とすことも、親会社の指示により容易に行うことができてしまうのです。
※タイの税務当局と日本の税務当局による税金の取り合いが始まります。

昨今、「パナマ文書」など、軽課税国を利用した租税回避が国際的に問題となっています。軽課税国に利益を付け替えるために、軽課税国から日本本社(又は協力会社)に請求書を発行して、軽課税国の売上を確保するのですが、その請求書に記載された売上金額が「本当に適正ですか?」ということを、移転価格税制により検証するのです。※ちなみに、そのビジネスに「実態がありますか?」と検証するのがタックスヘイブン税制となります。

移転価格税制により、適正とされている金額は上記の例においては、「100円」です。

自社グループが決めた価格ではなく、第三者との取引において利用している価格がその取引の適正価格となるのです。これが移転価格税制の本質的な部分です。
【本質的な部分】
①自社グループ内の値付けは親会社が自由に決めることが可能(問題点)
②価格の検証は第三者が利用している価格によって検証(検証方法)
③グループ内の価格と第三者の価格に差異があれば、その差額に対して課税(課税方法)

移転価格税制の本質的な部分に関しては、上記の通りですが、なぜ世界的にこれだけ騒がれているかというと、一回一回の追徴税額が破格になることが非常に多いためです。これが企業の実害です。

価格に踏み込んだ指摘をされるということは、ビジネスそのものを指摘されると言っても間違いではありません。例えば、皆さんの親子間取引の金額について利益10%の更正を受けたとしましょう。親子間の売上が1億バーツだっとしても、課税所得に与えるインパクトは1,000万バーツにものぼります。これが5年間遡られたら5,000万バーツ、この5,000万バーツの課税所得に過少申告加算税及び延滞税等を加えた実効税率(約60%)で計算すると、タイにおいては3,000万バーツ程度の税金を追加で払わなければなりません(税金の額が3,000万バーツです)。製造業であれば3~5%、商社であれば5~10%程度の所得更正が行われることが多いように思いますので、概算でも良いので自社の税金へのインパクトを計算してみてください。

移転価格文書の作成とは、自社がこう考えているという「(価格の適正性の)法解釈」を税務当局に示すものであります。文書作成の対象となる企業が移転価格文書を作成していなければ、税務当局からの価格の指摘を反証することが難しくなります(その他、文書を持っていなければ20万バーツの罰金はいずれにしても発生してしまいます)。追徴税額が多額になる傾向にある移転価格税制による指摘リスクを減らすために、タイの経理マネージャーだけではなく、親会社や会計事務所などと協力することが必要になります。

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yo-katase@bn-asia.com

※本ブログに記載の内容は、作成時点で得られる法律、実務上の情報をもとに作成しておりますが、本ブログの閲覧や情報収集については、情報が利用者ご自身の状況に適合するものか否か、ご自身の責任において行なっていただきますようお願いいたします。 本ブログに関して発生トラブル、およびそれが原因で発生した損失や損害について、Bridge Note (Thailand) Co., Ltd及び執筆者個人.は一切の責任を負いかねます。また、本ブログは一部で外部サイトへのリンクを含んでいますが、リンクする第三者のサイトの個人情報保護の取り扱いや、そのサイトの内容に関して一切責任を負いませんのであらかじめご了承ください。

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